新シリーズ、始まり
ニュースレター3本目となる今回。新企画で「ブックガイド」を試してみようと思います。直接的あるいは間接的にインフォグラフィックに関係する本を選んで、紹介します。
初回は、『色のコードを読む』をセレクトしました。
どんな本か?
「赤は危険」「青は憂鬱(ブルー)」など習ったわけではないのに、刷り込まれている色のイメージ。それらは何に由来するのか、文化的背景をまとめた本です。
この本の魅力
取り上げられているのは11色(赤・黄・青・オレンジ・紫・緑・ピンク・茶・黒・グレー)で、端的に各色が持つ意味や与える印象を知りたいなら、配色の本などを読んだ方が手短にすむはずで、この本の魅力はそこではありません。
たとえば、オランダの国旗は現在の赤・白・青のストライプではなく、もともとは赤の代わりにオレンジが使われていて、それはスペインからの独立を指揮したオラニエ公ウィレム家の旗に由来していて、オレンジ色の染料がすぐ色褪せてしまうため、やがて赤が使われるようになったとか。だからサッカーのオランダ代表のユニフォームはオレンジ色なのだとか。
といった具合に、政治の話をしていたかと思うと、サッカーの話になったりと、見方によっては取り止めのない話の連続とも言えなくはないのですが、ばらばらの話題が「オレンジ」という色を中心に重なっていって、その色の輪郭を作っていきます。
終始、僕が読んだことのあるデザイン書としての色の本とは違っていて、音楽、サッカー、絵画といったカルチャー視点と政治や歴史、宗教といった社会の視点が混ざり合いながら色を語るのが特徴です。
どこから来たのか
では、それらの視点がどこから来たものなのか──その手がかりとなりそうなのは著者ポール・シンプソン氏のプロフィールです。
文化に関する記事を執筆するジャーナリスト、編集者。サッカー月刊誌『FourFourTwo』を創刊し、『Design Council』誌の編集や、『Financial Times』、『Campaign』、『Wanderlust』などの雑誌に執筆している。著書に、エルヴィス・プレスリーについての書籍『The Rough Guide to Elvis』などがある。
ポール・シンプソン氏が創刊編集者を務めた『FourFourTwo』は、なんでもサッカーの伝統的なフォーメーションの一つ「4-4-2」にちなんで名づけられたとかで、1994年にイギリスで創刊。デジタルと紙の両方で展開しています。
サッカー雑誌を創刊し、文化的な記事を編集・執筆するジャーナリスト。なるほど、そういうことかと思うのは、11色中8色で出てくるサッカーに関する話題や、ドラクロワやピカソといった画家、エルヴィス・プレスリーやディープ・パープルなどミュージシャンのエピソードが随所に織り込まれているところ。
僕のお気に入りのストーリーは、古代エジプトでも文書の重要な箇所を赤色で目立たせていたって話と、アメリカでピンクが男の子に相応しい色とされていた話、サッカーのイタリア代表のユニフォームが国旗(緑・白・赤)にちなんだ色ではなく青な理由、「ホワイト・エレファント(白い象)」という言葉が持つ意味と由来など。
色を通して見る社会
色が持つ機能のひとつに、物事を「区別」することがあります。たとえば信号は色の区別を使って、状況を伝えます。一方、紫は高い身分の人しか着てはいけない、ある職業の人はこの色を着るなど、階級や立場にレッテルを貼るものとしても使われてきたことは、色が持つ社会性を表しています。
色を通して社会を見ているのが本書で、こんな一文がイントロにもでてきます。
そのプリズムには私たちの感情、文化、年齢、性別、宗教、政治、特定のスポーツチームや選手に対する忠誠心、あるいは個人的な経験などがすべて関わってくる。パストゥローはこう言っている。「色とは、何よりもまず、社会的な構成要素なのだ」。
様々なトピックを通じて色を見る。反対に色を通じて社会を見る。
どの話題から興味を持つかは人それぞれで、僕の場合はそれがサッカーのユニフォームが入り口で、でもある人にとってはそれがナポレオンかもしれないし、ある人にとっては山本耀司のエピソードかもしれません。