いよいよ来週発売の新著『インフォグラフィック制作ガイド』から、一足早く、「はじめに」を転載します。
先行公開:はじめに
パンデミックの最中、世界的な混乱と身近な不安、脅威に対する無力の中で、インフォグラフィック・デザイナーとして自分にできることはなんだろうと考えました。
それは、インフォグラフィックとは何かを問い直すことでもありました。社会の大きな流れの中で、一体、僕に何ができるのか? インフォグラフィックは何をするものなのか?
「情報をわかりやすく伝える」とか「見える化する」とかそういう表面のことではなくて、その根底にあるインフォグラフィックの存在意義を言葉にしたいと思いました。
世界の危機は、人や物など様々な物事の「関係」を際立たせます。行動が制約される、物が届かなくなる、感情がぶつかる、経済が落ち込む──こうしたことの根本には、関係があります。どこからどこに移動し、誰と誰が関与し、それぞれがどういうスタンスでどこが違うのか。関係に不具合が生じることで、世界はうまく回らなくなります。
そんなことを考えている内に、そうかと思いました。インフォグラフィックが表現するのは、「関係」なのだと。一見複雑に映る物事の関係をひもとき、再構築して視覚的にプレゼンテーションする。そう考えると、社会の中でインフォグラフィックが果たす役割が山ほどあることに気がつきます。この気づきは僕にとって、あらためてインフォグラフィックに取り組む動機になりました。
パンデミックの傷が癒えたとしても、世界が「持続可能な社会」をゴールとする上で、理解し行動に移さなければならないことがたくさんあります。なぜなら、この世界的な目標は、気候危機、経済、貧困、ジェンダー、人権、食糧など広範囲にわたっており、それらは複雑に関係しているからです。さらには各問題への理解不足とそれぞれの人や国や産業などの利害も重なって、具体的な行動に至る道のりは簡単ではありません。
このまま社会不安のリスクが高まれば、極端な言動や行動がこれまで以上に席巻し、分断を押し進めることになるでしょう。まだいくらか冷静でいられるうちに、状況を理解し、コミュニケーションを活発にして、アクションの数を増やすことが必要です。そこでカギを握るのが「情報」であり、「情報デザイン」であると考えています。
人が何か行動する時、それが自発的であれ、間接的であれ、起点には情報があります。何かを見る、聞く、触る、感じるなどしてインプットした情報に触発されて、次の行動が生まれます。
重要な問題なのに、関心が集まらない。
複雑に入り組んでいて、理解するのが難しい。
遠い世界の話のようで、行動につながらない。
インフォグラフィックがあったからといって、すぐにすべての物事が全員にとってクリアになり、同じ方向を向くようになって、社会課題が解決してめでたしめでたしとなるとは思いません。でも、何かの問題に対する興味のきっかけを生むことはできると思います。それは、回り回って大きな行動のきっかけにつながるかもしれません。
本書をきっかけに、インフォグラフィックに興味を持ち、読者のみなさんが社会を変えるきっかけをいろんなシーンで生み出して、その中のいくつかの動きによって社会がより良い状態になったらと思います。
それには、そもそもインフォグラフィックとは何か、可能性はどんなところにあるのか、どんなことを考えて作るのか、どうやって作るのかを広めていく必要があります。そこで本書は、これからインフォグラフィックを使おう、作ろうという人にとってのガイドブックになることを目指しました。
この本は、インフォグラフィックについての基本知識と制作手順をまとめた本です。
インフォグラフィックを学ぼう。
インフォグラフィックを使う人・作る人のためのガイドブック。「インフォグラフィックとは」の定義から、制作プロセスまで、これ一冊で。